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車両モデリングのためのタイヤの力学とスタビリティファクタの基礎

目次

はじめに

以前書いた記事の内容が長くなってしまったので、

myenigma.hatenablog.com

タイヤの力学関係と、

スタビリティファクタ関連の内容をこちらに移動しました。

車両のスリップを表す値

車両を制御する上で

タイヤのスリップを考慮することは非常に重要です。

タイヤがスリップしている場合は、

制御が不安定になってしまうことが多く、

最悪の場合、車両がスタックしてしまったり、

車両がロールオーバーして、大事故になってしまったりします。

 

このような車両のスリップを表す値は、大きく分けて

前進方向のすべりであるスリップ率と、

横方向のすべりであるスリップ角があります。

スリップ率 (すべり率)

まず初めに、

スリップ率はタイヤの回転数と車両の前進速度による

前進方向の滑りを表す値です。

車両の前進方向の速度Vxと、

タイヤの回転数ω、

車輪の半径をrとすると、

スリップ率αは

となります。

一般的に、タイヤの回転数はタイヤのパルスセンサの値から、

前進方向の速度はGPSやカメラセンサで取得することが多く、

これらのセンサデータから、リアルタイムにスリップ率を計算することができます。  

スリップ角 (すべり角)

スリップ角は車両の方向と速度ベクトルが成す角度で、

車両の横すべりを表す値です。

車両の前進速度Vxと横方向の速度Vyを使うと、

スリップ角βは

で計算できます。

車両が走行している場合、

横方向の速度Vyは前進速度Vxに比べて非常に小さいので、

スリップ角は非常に小さく、

車両の方位と速度ベクトルの方向はほぼ同じになります。

 

一般的に、Vxはタイヤのパルスセンサから、

VyはIMUなどの加速度センサの値を積分したり、

GPSの値などを使って計算することにより、

リアルタイムでスリップ角を計算することができます。

 

ちなみに一般的な自動で通常走行している場合は、

このスリップ角は2-5度で最大でも10度ほどのようです。

タイヤ特性

f:id:meison_amsl:20150605224756p:plain

引用: Tires and Cornering - Wheels Rims Tires for Cars Trucks SUVs RimsDealer.com

車両のステアリングを切ると、

タイヤにスリップ角が発生し、それによりタイヤを捩れることで

上図のように、移動方向とは垂直の方向への力が発生します。

この力が車両を旋回させることになるため、

この力をコーナリングフォースといいます。

またタイヤの進行方向の力を駆動力

タイヤの垂直方向の力を横力といい、

コーナリングフォースは駆動力と横力の合成力であると言えます。

このコーナリングフォースとすべり角の関係は下記の図のようになっており、

すべり角の小さい領域では線形増加といえますが、

すべり角が大きい領域では非線形になり、飽和してしまう特性があります。

f:id:meison_amsl:20150605223057p:plain

引用:Honda Worldwide | Automobiles | NSX-R

また、すべり角の小さい領域での線形部分の傾きのことを

コーナリングパワーともいいます。

 

また、タイヤには先ほどのタイヤの捻りにより、

それを戻す方向のトルクも発生します。

これはセルフアライニングトルクといい、

この力によりステアリングを曲げて、

ステアリングにかかる力を抜くと、

元に戻っていくようになります。

 

このセルフアライニングトルクも、

コーナリングフォースと同じく、

滑り角が小さい所では線形増加ですが、

滑り角が大きくなると飽和し、

それ以上は逆に減少するような特性をもっています。

タイヤモデル: 線形モデルとMagic Formula

前述の図のように、

タイヤの滑り角とコーナリングフォースの関係は

非線形の関係になります。

 

しかし、前述の図のように、

すべり角が小さい領域では、

スリップ角とコーナリングフォースは線形の関係であるため、

スリップ角が十分小さい状態で走行する場合は

下記のようなタイヤの線形モデルを使用します。

ここで、βはスリップ角、Fはコーナリングフォースで

その傾きであるCはコーナリングパワーを表します。

 

しかし、このモデルではすべり角が大きくなった時に、

実際のコーナリングフォースと誤差が発生してしまいます。

そこでよく使用されるのがMagic Formulaです。

車両運動解析用タイヤモデルに関する研究

このMagic Formulaは、

タイヤのシミュレーションモデルとしてよく使用されるモデルで、

タイヤ試験などにより、パラメータのチューニングを実施することにより、

比較的精度の高いモデル化が可能になります。

 

Magic Formulaモデルを使った場合の、

タイヤモデルは下記のようになります。

上記のように、Magic FormulaはB, C, D, Eという4つのパラメータにより、

タイヤの非線形モデルを表します。

このMagic Formulaを使った場合のタイヤカーブは下記の図のようになり、

実験結果の非線形のタイヤモデルをモデル化しているのがわかります。

f:id:meison_amsl:20150829141613p:plain

Magic Formulaの4つのパラメータは、

B×C×Dがコーナリングパワーになることと、

タイヤが飽和するすべり角、コーナリングフォースを

タイヤ試験から求めることにより、

見積もることができます。

 

ちなみに、線形領域を超えた部分における、

コーナリングパワーは、

タイヤの垂直抗力Fzと、

静摩擦係数μに比例することがわかっています。

 

ステアリング旋回時の力学とステアリング性能

自動車がステアリングを切ると、

上記のように車両の横方向に

コーナリングフォースが発生します。

そして、このコーナリングフォースにより

車両は曲がり始めるのですが、

その際の旋回運動によりコーナリングフォースと

反対方向に遠心力が発生します。

これらの力の関係により、ステアリングを切った時の

車両の運動を定式化するとことができます。

 

まず始めに、

コーナリングフォースと遠心力が下記の式のように釣り合っている時、

この状態を定常旋回運動といいます。

コーナリングフォースと遠心力が釣り合っているため、

横方向の加速度は発生せずに、円の運動をする場合です。

一般的には車両はこのような定常旋回をしながら

旋回することになります。

 

しかし、この力が釣り合わなくなる状態も発生します。

上記の式のように前進速度が大きくなると、

二乗で遠心力も大きくなるます。

しかし、コーナリングフォースは

上記のタイヤカーブを見れば分かる通り、

線形で無限に大きくなるわけではありません。

遠心力が大きくなるにつれて、

タイヤのスリップ角も大きくなりますが、

それに伴うコーナリングフォースは、

ある一定以上のスリップ角以上で頭打ちになってしまいます。

(この状態をタイヤ力の飽和といいます)

 

そのような状態でどんどん前進速度を上げていくと、

遠心力とコーナリングフォースの釣り合いが取れなくなり、

車両が回転中心と反対方向に流れていってしまうのです。

この状態が発生すると、車両が横滑りするため、

ドリフト状態になり、重心が高い車両などの場合、

横転してしまうことになります。

 

また、コーナリングフォースの飽和とは

別の要因で車両が横滑りしてしまうこともあります。

これは前輪と後輪のタイヤカーブの違いや、

重心の違いにより生じるものです。

 

下記の式は、スタビリティファクタという値で、

この値により横滑りしやすい車体かどうかを判定することができます。

ここで、Cf,Crは前輪後輪のコーナリングパワー、

Lf, Lrは重心からの前後輪までの距離です。

下記のグラフのように、Ksが0な車体は、

速度を上げていっても、タイヤが飽和するまで

横加速度は発生しませんが、

Ksが0以外の時は、飽和しなくても横加速度が発生してしまいます。

f:id:meison_amsl:20150624191330p:plain

 

例えば、Ks>0の時は、Under steer状態といい、

旋回中心からみて外側方向に横加速度を持ちやすい状態になります。

一方、Ks < 0の時は、Over steerといい、

旋回中心からみて内側方向に横加速度を持ちやすい状態にまります。

f:id:meison_amsl:20150624191252p:plain

上記のスタビリティファクタの式を見ると分かる通り、

前後輪のコーナリングパワーが同じで、

重心から前後輪までの距離も同じであれば、

ニュートラルステア状態(Ks=0)になりますが、

重心の変化や、タイヤの摩耗、

そもそもの車両設計の不具合などにより

スタビリティファクタは変化し、

0以外になってしまうことがあります。

 

ニュートラルステア以外のステアリング制御性能の車両は

横滑りしやすい車両であるため、制御が難しくなります。

ですので、自動車の設計の際には

ステアリング性能がニュートラルステアになるように

設計・制御することが重要になります。

ステアリングファクタの見積もり

上記のように、ステアリングファクタは重要な値なので、

実際の車両実験によって推定します。

まず初めにステアリングの舵角をある値で固定した状態で、

円旋回の走行をします。

そこで速度を変化させて、その時の旋回半径を計算します。

そして、横軸を速度の二乗、

縦軸を低速時の旋回半径との比とすることで

下記のようなグラフを作成します。

f:id:meison_amsl:20150906215333p:plain

すると、上記のように直線を書くことができるので、

その直線の傾きがスタビリティファクタになります。

参考資料

myenigma.hatenablog.com

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