本文
移動ロボットのシステムに
Simultaneous Localization And Mapping (SLAM) の技術を
組み込むことには
いくつかの利点がある.
一つ目は,
自己位置推定に
外界センサのデータを利用できることである.
カメラや Laser Range Finder(LRF) などの
外界センサの測定データは,
基本的に周辺環境の地図構築にしか利用することができない.
一方,一般的な自己位置推定の方法では
ジャイロやホイールエンコーダなどの
内界センサを利用するしかなかった.
しかし,SLAMの技術を利用することにより,
外界センサから作成した地図情報を
自己位置推定に利用することが可能になるのである.
また,
内界センサの精度があまり期待できないような環境,
例えば,
強い磁場が生じて電子方位計が狂ってしまうような環境や,
地面が平面でなくホイールオドメトリが
使用できない環境などにおいても
SLAMを行い,地図情報を用いることにより,
高精度な位置推定が可能になるという利点がある.
もう一つの利点は
ループの閉じ込みである.
記事の最初に示した図は
SLAM におけるループの綴じ込みの効果を図で示したものである.
グローバルな位置情報を得ることができない環境において,
内界センサのみを使用した自己位置推定手法を使用した場合,
センサノイズによる自己位置推定の誤差は蓄積し.
増加し続けてしまう.
加えて,
グローバルな位置情報を得ることができないために,
この推定誤差を補正することは不可能である.
この時の状況が図の左側の図である.
推定の誤差が蓄積してしまうため,
ロボットは,ある環境で一周し,
元の位置に戻ってきたとしても
スタート地点に戻って来たことを認識することができない.
これはロボットが未知の環境で作業するには大きな問題である.
しかし,SLAMの技術を利用することにより,
この増加し続ける誤差を減少させることができる.
図の右側の図は
SLAM によりループの閉じ込みが行われた時の図である.
SLAM は
自己位置情報と地図構築を同時に実施し,
そして互いに関連付けることができる.
そのため,
以前観測した地点の周辺環境を
再び観測することにより,
以前に作成した地図の情報から
自己位置推定にフィードバック補正をかけることができるのである.
つまり,SLAMでは,
以前見たランドマークを再認識することにより,
ロボットが自分自身で自分の位置の推定がずれていたことに
気がつくことができるようになるのだ.
したがって,
右側の図のようにスタート時に観測したランドマークを
一周して再び観測することにより,
ループの閉じ込みが生じ,自己位置推定に補正がかかり,
位置誤差が減少させることができる.
このように,SLAM の技術は
ロボットの全てのセンサを使用した上での
高精度な自己位置推定と地図構築を可能にする.
また,グローバルな位置情報が得られない環境でも,
ロボット自身が
グローバルな位置の情報源としてのランドマークを作成し,
まるでグローバルな位置情報を得られた時のように,
自己位置推定を補正させることができる.
このような認識方法は,
実際に人間が位置推定を行なっている方法に
限りなく近いと言える.
したがって,SLAM の技術の進歩は,
ロボットがより高い認識レベルに進化するための
重要な技術であり,
ロボットが現在より
一つ上のレベルの存在になるための重要な要素である.