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誰もが条件さえ揃えばモンスターになり得る:『歌うクジラ』村上龍



『五分前の世界』の書評で書いた通り、

五分後の世界 村上龍ーある歴史の仮説 - MY ENIGMA

もし小説というのが

世界の在り方の可能性の一つを

映し出すものであるとしたら

やはり村上龍は素晴らしい小説家であるといえます。




この本の内容は

不老不死の遺伝子を見つけた

人類が歩んだ未来を描いたSF小説です。

不老不死を与えられた人と

与えられなかった人の

住み分けが行われ、

その中で一人の少年が旅をする話です。



かなり世界観が作りこまれていて,

一気に作品の世界に引き込まれると思います.

自分的には,

貴志祐介の『新世界より』に似た

緻密な世界観による

作品への圧倒的な没入感が最大の魅力だと思います.

新世界より(上) (講談社文庫)
新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(中) (講談社文庫)
新世界より(中) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)
新世界より(下) (講談社文庫)

おそらく,

『新世界より』が好きな人は

この作品も好きになるはずです.



この作品で一番心に残ったのは,

誰でも条件が揃えばモンスターになり得るということです.

科学水準が高まり,

以前よりは圧倒的に豊かな生活を送っている現在でも,

ふとしたことで,

人間はタガがはずれ,

考えられないような行為をしてしまいます.

どんなに平和な社会でも,

10万人に一人でもそのようなモンスターが生まれれば,

一気にその平和な世界はバランスを崩し,

崩壊に向かってしまうことをこの作品は精密に予測するのです.



この作品では,

そのようなモンスターに変異してしまう要因を,

"持つべきものが持たぬものへ持つ

 無意識な罪悪感(贖罪観)"

であると言っています.

人間としての超えられない明確な壁は

一方でしょうがないと思いながらも,

無意識の中では,

それがストレスとなり,

ある一匹のモンスターを生むのです.



現在の世界でも,

時たま,こんなに豊かな先進国から

目や耳を覆いたくなるような

残忍な事件が起きていることを考えると,

同じ論理が適応できるのかもしれないと思いました.




いずれにせよ,

今とは違う世界を映し出すのが小説だとしたら,

今回の作品はそれを十分に果たしており,

そこから現在の世界を見つめることにより,

より一層深い感慨を得ることができると思います.




すべての人にオススメの作品です.




ちなみに記事の頭に掲載した

Amazonのリンクの先に

筆者村上龍のインタビューが掲載されているので,

この本を読んだ人は是非見てみることをオススメします.




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