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3.ユーザが何をするかを観察する (あなたはユーザではない) Giles Colborne:『プログラマが知るべき97のこと』

# 目次

# はじめに

以下の記事は,オライリージャパン社から出版された

『プログラマが知るべき97のこと』

の中から1つのエッセイを選び,

そのエッセイを,クリエイティブコモンズ3.0の条件の元で転載したものです.

Creative Commons ― 表示 3.0 アメリカ合衆国 ― CC BY 3.0

もし,他のエッセイを読みたい場合には,

記事末のリンクを辿るか,

以下のリンク先のTwitterアカウントのつぶやきからお探し下さい.

Twitter Account: 97 Things Bot



3.ユーザが何をするかを観察する (あなたはユーザではない) ジャイルズ カルバン(Giles Colborne)


私たちはどうしても,

誰もが自分と同じような物の見方や考え方をするはず,

と思ってしまいがちです.

しかし実際には,

物の見方や考え方は人によって大きく異なっています.

こういった誤った思い込みのことを心理学では

「偽の合意効果」*1

と呼びます.

自分と考え方や行動が異なる人を見た時,

私たちは,

(多くの場合は無意識に)

そういった人達を,

何か問題のある人と,

というふうに評価してしまいがちです.



ユーザの身になって考えるということが

なかなかできないプログラマが多いですが,

その理由も

この「先入観」にあると言ってもいいでしょう.

ユーザはプログラマのように物を考えません.

そもそも,プログラマに比べて,

コンピュータを使う時間が

圧倒的に少ないのです.

また,

コンピュータの中がどう動いているのかも知らないですし,

知りたいとも思っていないでしょう.

プログラマなら日ごろから当然のこととして馴染んでいる

「問題解決のテクニック」

がいろいろありますが,

彼らはそれらに頼ることもできません.

また,プログラマならば,

ユーザインタフェースを弄るうちに

お決まりのパターンや変化,操作のヒントなどを

自動的に嗅ぎとることができますが,

一般のユーザはそんなことはできないのです.



ユーザが何をどう考えるのかを知るには,

ユーザそのものを観察するのが一番です.

自分がいま開発中のソフトウェアとよく似たソフトウェアを使って

ユーザに何か作業をしてもらい,

その様子を観察するのです.

その作業は,

できるだけ本物の業務の中にありそうなものにします.

例えば,Excelのような表計算ソフトならば,

「列の数字を足しあわせていく」

というような作業のことです.

「先月の自分の出費を計算する」

ならもっといいですね.

しかし,

「スプレッドシートの特定のセルを選択して,SUM式を入力してください」

というような,

詳しすぎる指示は避けましょう.

このような指示だと,

ユーザは自分でソフトウェアの使い方を考えたり,

判断したりする必要がなくなるからです.

そして,

作業が何処まで進んだのか,

今どんな状況なのかをユーザ自身に話してもらいましょう.

あなたは途中で作業に割り込んだり,

手助けをしたりしてはいけません,

観察しながら絶えず,

「なぜ,この人はこういうことをするのだろう?」

「なぜ,このようにしないのだろう?」

と考えるようにするのです.



観察していて最初に気がつくのはおそらく,

「ユーザは基本的にだいだい同じようなことをする」

ということでしょう.

作業を進める順序も,

どこで間違えるかも,

ほぼ同じなのです.

つまりソフトウェアは,

こういったユーザの基本的な振る舞いを踏まえて,

設計する必要があるということです.

これは会議室で,

「ユーザは多分,こうするから...」

などと想像で話し合うのとはまったく違います.

単なる想像を基に話し合っても,

ユーザがないを求めているのか,

明確なことは何もわからず,

結局複雑で使いづらいものができてしまうでしょう.

ユーザを直接観察すれば,それを防ぐことができるのです.



ユーザがどうしていいかわからず,

立ち往生している場面も

何度か目撃することになるでしょう.

そういう時,プログラマならば,

視点を変え,別の使い方を試します.

しかし,ユーザはそうはいきません.

立ち往生したユーザは視野を狭めてしまうため,

画面内の別の何処かにある解決策を見つけることが非常に困難になります.

このため,

ヘルプはユーザインタフェースの不親切さの解決にはならないのです.

問題解決のための指示,

ヘルプテキストなどは,

問題が起きているまさにその箇所に表示されないと意味がありません.

ユーザの視野が狭くなってしまっているので,

ヘルプメニューよりも

ツールチップ*2の方が有用なのです.



ユーザは,自分の目的がどうにか達せられれば,

それで良しとします.

効率よくやろうとはあまり考えません.

何とか目的を達成できる方法を1つ発見すれば,

ずっとその方法に固執します.

それがいかに非効率な方法であろうと,

容易には変えようとはしないのです.

ショートカットが2つも3つも用意されていたとしても,

大してそのことには意味がなく,

それより見てすぐに解る方法がたった1つ用意されている方が

ありがたいと感じるのです.



ユーザが「こうしたい」と口で言ったことと,

実際にやっていることが食い違っていることには

あなたも気がつくでしょう.

これも非常に厄介な問題です.

ユーザが何を求めているかを知ろうとすれば,

普通,彼らの言葉そのものを頼りにするからです.

実は,ユーザが求めているものを正しく知るには,

言葉を聞くよりも,

彼らの行動を観察する方がいいのです.

彼らが求めるものを頭で考えて,一日過ごすより,

わずか一時間でも彼らの行動を観察した方が,

得るものは多いでしょう.



■著者データ

[ジャイルズ カルバン(Giles Colborne)]

ブリティッシュ・エアロスペース*3

英国物理学会出版局(IOP:Institute of Physics Publishing),

ユーロRSCGなどで,

20年に渡り,一貫してユーザビリティに関わる仕事をしてきた.

その間,コンピュータを使う何百人ものユーザの姿を観察してきた.

実験室でコンピュータを使ってもらったこともあるが,

職場や自宅で普段のコンピュータの使用の様子を観察したこともある.

2004年には,

ユーザ中心デザイン(UCD:User Centerd Design)の会社

"cxpartners"を共同設立した.

同社ではNokia,Mariott,eBayをはじめとする顧客のために

デザインとユーザのふるまい,

あるいはユーザの体験との関係を研究している.

2003年から2007年の間は,

英国UPA(Usability Professional's Association)の会長を努め,

BSI(British Standards Institute)と共に,

アクセスビリティ関連の規格策定,ガイダンスなどに取り組んだ.




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*1:人が自分の考え方を他の人に投影する傾向:偽の合意効果 - Wikipedia

*2:ユーザがカーソルを何かの項目に合わせたとき、その項目に覆いかぶさるような形で小さな枠が出現し、その枠内には選択された項目に関する補足情報が表示され機能:ツールチップ - Wikipedia

*3:ブリティッシュ・エアロスペース 英語:British Aerospace, 略称:BAe はイギリス国内にあった航空機メーカー4社が統合して1977年4月29日に誕生した国有航空宇宙企業である。1999年にはBAEシステムズ BAE Systems に組織改編された。ブリティッシュ・エアロスペース - Wikipedia