MyEnigma

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この世界全体を包むすべての要因の根源が,大陸が横に長かったことと,よく見る動物が一杯いたせいだったなんて....『銃・病原菌・鉄―1万3000年にわたる人類史の謎』






「現在の人類の格差は何によって,生まれたのか?」

この本は,そんな非常に根源的な質問に答えようとする内容です.

つまり,この質問を言い換えると,

「なぜ現在の先進国の大部分は白人の国なのか?」

「なぜネイティブアメリカンやアボリジニは白人に侵略されてしまったのか?」

「人類はアフリカで発生したはずなのに,なぜ国的な発展が遅いのか?」

ということになると思います.



もし,より簡単にこの質問を言い換えるとすると

「今の世界の国々のパワーバランスの根源は,何によるものなのか?」

とも言えるかも知れません.



結論から言うと,

「人類の格差は,

置かれた環境の差異によるものであり,

生物学的な差異によるものではない」

ということです.



つまり,現在のような白人優位な世界のパワーバランスは

白人が他の人種より優秀であったということではなく,

「たまたま白人がいた環境が恵まれていた」

ということに起因するのです.



この本は朝日新聞が主催した,

ゼロ年代の50冊という,

2000~2009年に発売された本の中で,

151人の知識人が選んだベスト本の中の1位をとった作品です.

asahi.com(朝日新聞社):本の目利き 151人のベスト5 - ゼロ年代の50冊



これまで,何度も読もうとしましたが,

あまりにも前評判が良かったので,

おいしい物は.後でとっておくように,

読まないでいました.


しかし最近,少し時間が出来たので,

一気に読んでしまおうと決心した次第です.


結論をいいますと,

前評判以上の,最高峰の作品だと思います.



簡単に,この本の論理の流れをまとめてみたいと思います.

現在の白人優位の世界は,

以下の理由の鎖で表現されていると,筆者ジャレドは主張します.


今の白人優位の世界は.

白人が他の大陸に進出した際に,

「銃の技術,病原菌に対する耐性,鉄の製錬技術」

を持っていたことによるものであるとジャレドは言います.



これは,ずいぶん以前から

様々な文献や研究から明らかになったことです.

特に驚きもありません.



しかし,ここで2つの大きな疑問が浮かびます.



まず一つ目は,

「なぜ,白人たちは銃の技術や

 鉄の精錬技術を持っていたのか?」

ということです.



ジャレドは言います.

なぜなら,

白人たちは,

技術を伝達するための文字と,

技術を発明するための専門職の人々,

をどの人種より早く手に入れたからであると.



なぜなら,文字の発明により,

技術を文字によって正確に伝達することができ,

技術の進歩が進み,

専門職の人を養うことにより,

技術革新が一段と早く進んだからです.



では,

なぜ白人達は

文字と専門職の人々を

手に入れることができたのでしょう?



ジャレドは再び言います.

それは,白人達は,

狩猟民族であった初期人類の中で,

いち早く集権的な政治システムをつくることができたからだと.



なぜなら,集権的な政治システムを手に入れることにより,

政治を動かし,記憶するための文字のシステムの発明と,

税金によって専門職の人々を養うことができたからです.



では,

なぜ白人達は,

いち早く集権的な政治システムをつくることができたのでしょうか?



ジャレドはまたまた言います.

それは,白人達は,

狩猟民族であった初期人類の中で,

いち早く,農耕民族になることができたからだと.



なぜなら,農耕民族になることにより,

狩猟のための移動がなくなるので,

より,多くの人が一緒に生活できるようになります.



同様に,

農耕民族になることにより,

すべての人間が食物を得るために仕事をしなくても

十分食料を得ることができるようになり,

専門職の人を雇うことができるようになったのです.



最後に,

なぜ白人たちは農耕民族になれたのでしょう?

他の人種の人達も,同じ時間地球に存在したのですから,

同じ確率で農耕民族になれたはずです.



ジャレドは,

最後にこのように,きっぱりと言い放ちます.

それは,

「白人がいたユーラシア大陸が東西に長かった」

からだと.

なぜなら,東西の方向には季節の違いがないため,

簡単に遠くで発明された農業技術を伝播させ,広めることができます.

南東に長い,アフリカ大陸やアメリカ大陸では,

気候が違いすぎるため,

農業の技術を伝播し,

高めることが難しかったのです.



続いて,二つ目の質問は,

なぜ,白人たちは病原菌の耐性を持っていたのか?

ということです.

白人たちが,新しい大陸にたどり着いた時,

新しい大陸の先住民たちは,

白人達が持ってきた天然痘などの病原菌によって,

多くが死に絶えました.

しかし,

逆になぜ先住民たちの病原菌は白人には感染らなかったのでしょう?



ジャレドはこの質問にも,

静かにはっきりと答えます.

それは,

「白人たちは多くの家畜を保有していた」

からだと.



先住民たちとは異なり,

白人ははるか昔から家畜を保有しており,

家畜と長い月日を過ごしています.

白人たちは家畜から人間に伝染る病原菌に感染し続け,

その過程で,それらの病原菌の耐性を得たのです.



では,

なぜ白人達は家畜を得ることができたのでしょう?



ジャレドは最後に吐き捨てます.

それは,

先ほどの述べたように,

白人達はいち早く,農耕民族になったこと.

そして,もう一つは白人たちがいたユーラシア大陸には

家畜になることができる動物が沢山いたからです.



つまり,

これまでの話を一言でまとめると以下のようになるでしょう.

「現在の白人優位のパワーバランスは,

 白人が昔から住んでいたユーラシア大陸

 東西に長く,

 そして,

 家畜となる動物が沢山いたこと

 から生まれたものである.」

と.



こんなに美しい論理のつながりはあるでしょうか?

論理が美しすぎて,

ある意味での静かさや冷淡ささえも感じてしまうほどです.



この世界全体を包むすべての要因の根源が,

大陸が横に長かったことと,

よく見る動物が一杯いたせいだったなんて....



壮大な問いの答えとは,

一度知ってしまうと,

その単純さと,虚しさで

悲しくなるものなんですね.



いずれにせよ,

この世界の在り方に

少しでも疑問がある人は是非この本を読むことをオススメします.