「身内に不幸がありまして...」
どんな重要な約束事でも一瞬で反故にできる魔法の言葉.
遊びでも仕事でも,この言葉を発すれば,
一瞬ですべてを無しにすることができます.
そしてどんな人でも,
例え,急に自分の約束を反故にされたとしても,
まるで自分が悪いかのように,優しく接してくれるのです.
「それは大変だったね...私のことは気にしないで.」
と.
そして,本当に身内に不幸があったかどうかなんて,
決して確認されないものです.
なぜなら,それを疑うこと自体が,
まるで人間の道を外れているかのように,
その人の心を苦しめるからなのでしょう.
この小説の最初の短編
『身内に不幸がありまして』の主人公も
この魔法の言葉に魅了され,
そして現実と想像の世界を混濁してしまいます.
そんなお話.
個人的にはすべての話の中で,この最初の話が一番面白かったです.
最後に,この話を読んで初めに心に浮かんできたのは,
昔読んだ本に出てきた,こんな一節でした.
「僕が嘘をつき始めたのは,ほんの些細な出来事からだったんだ.
でもすぐに,その嘘を正当化するために,
また嘘をつかなければならなくなった.
そしていつのまにか,
僕は自分がついた嘘を現実にするために,
再び人生を歩み始めたんだよ.」
(出典不明)